がんの運動療法、まずはウォーキングから

ジョギング がんを患っていても体力があるなら、適度な運動も必要です。私たちのからだは、元々、野生の動物と同様、きびしい飢餓の環境ででも生き延びていけるようにできています。必要以上に食料を摂取したとき、つまり食べすぎたときは、過剰な栄養分を皮下脂肪などに蓄えて、飢餓による栄養不足の事態に備えておくようになっています。この状態に運動不足が重なれば、ますますからだは重くなってしまいます。

二百万年前、アフリカのサルが木の上から地上に降りてきて、直立二足移動(ランニング、ジョギング、ウォーキング)をするようになり、ライオンなど足の速い四足動物が捕らえた獲物を横取りして食べるようになったのが、私たち人類のスタートでした。 直立二足移動のお陰で脳が大きくなって、身体は長距離を走れるように変化し、ついに地上の覇者となりました。
私たち人類は地上を長時間走っていた動物のなので、交通手段、通信手段の発達した社会で暮らす現代人は、とにかく運動不足なのです。この運動不足が、今、私たちの心身へのストレスとなっています。
まずウォーキングから始めるとよいと思います。少し早足で、そして広めの歩幅で、少し身体が汗ばむ程度に歩くと良いです。毎日30分程度ウォーキングするだけでも随分効果があります。
ウォーキングは、からだにいいです。全身の筋肉を使うので、脳が刺激されます。特に自律神経系は随分活性化されます。また、合わせて、正しい姿勢と深い呼吸も身につきます。酸素摂取量も増え、全身への血液循環も良くなります。がんは組織中の酸素不足と大いに関連があります。酸素摂取量が多い人ががんで死亡する危険度は、少ない人の約三分の一といわれているくらいです。

スロージョギングの勧め

さらに、効果的に生活習慣病を改善したければ、スロージョギングがお勧めです。
糖尿病、高血圧症、脂質代謝異常などの生活習慣病は、脳卒中や心疾患を起こし、脳にも大きなダメージを与え、認知症なども引き起こします。
生活習慣病に対して医師の第一選択の治療方法は、運動療法と食事療法です。スロージョギングなどの有酸素運動は、血糖値を下げ、血圧上昇を抑え、善玉コレステロールを増やすなど、生活習慣病の病態そのものを改善する効果があります。特にスロージョギングは、ウォーキングの二倍のカロリー消費、通常のランニングと同等の持久力向上効果を併せ持つアスリートも注目するトレーニング法です。

ランナーズハイという言葉をご存じでしょうか。私たちはジョギングすることで、気持ちよくなることができるのです。脳には報酬系といって、脳に快楽を呼び起こす仕組みがあります。報酬系は腹側被蓋野と呼ばれる部分が中心となって行われる作用で、走ることで側座核という部分が刺激されると腹側被蓋野が活性化され、ドーパミンが放出されて、脳に快楽を呼び起こします。さらに、ドーパミンが放出されると前頭前野、運動前野、海馬などがよく働くようになります。
前頭前野は「ヒトをヒトたらしめる領域」といわれ、計画や目標設定など人間らしい行動を作り出す部分です。特にその中でも10野はある目的のために作業を順序立てて効率よくこなし、解決していく時に働く部分で、仕事のできる人ほど発達しているといわれています。

一方、海馬は記憶に関わる脳の重要な領域で、「長い間覚えておきたい記憶」をコントロールしています。三十五歳を過ぎると海馬の神経細胞の老化が始まり、高齢者になると年1~2%ずつ海馬の容積が減少するので、老化と共に記憶の減退が進んでしまいます。しかし、最近の研究によって、ウォーキングやスロージョギングなどの有酸素運動を行うで、海馬そのものが大きくなり、高齢者でも神経細胞が増殖し、記憶機能が向上することが分かってきました。

スロージョギングのポイント

脳や身体にすばらしい効果を示すスロージョギング。最後にその走り方のコツをご紹介します。

  • 笑顔を保てる、鼻歌を歌える、おしゃべりができる程度の速度で走る
  • 初めの目標は一日十五分、最終は三十分~一時間が目標
  • 足の指の付け根で着地するフォアフット・ランニングを心がける

(注意!)がんは進行すると体力が著しく低下します。がん患者さんが運動する場合は、かならず主治医に運動を行う旨の相談を行い、許可を受けてから行うようにして下さい。