マイクロバイオームJCHO東京山手メディカルセンター呼吸器内科部長 徳田均先生は、呼吸器感染症臨床医としての経験も踏まえて、この感染症の病態について一つの仮説を立てられています。
緊急寄稿 ある呼吸器内科医の仮説「COVID-19重症化の謎とマイクロバイオーム関与の可能性」と題して、2020/05/14の日経メディカル Onlineにその論文を投稿されました。医師 人気記事ランキングでも1位を獲得しているほど興味深い内容ですので、かいつまんでご紹介したいと思います。
内容について詳しく知りたい方は、下記のURLで原文を参照してください。
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202005/565493.html

抜粋
本稿を通じて私の主張したいことを以下にまとめる。
COVID-19は8割の人においては軽症のウイルス感染症に過ぎない。2割の人で免疫が適切に応答せず、ウイルスの増殖が続き、免疫の過剰応答(サイトカインストーム)が起こることが問題なのである。従ってCOVID-19医療の一つの要点は、感染した人が第2相、サイトカインストームに移行するのをどうやって防ぐかにある。そこにはマイクロバイオームと一体になった宿主免疫の複雑な応答が関与している可能性があり、そこを明らかにしてマイクロバイオームの修飾を通じて過剰な免疫活動を抑えるという観点からの治療方法の模索をもっと展開していくべきだと考える次第である。

新型コロナウイルス感染症の不思議な特徴

新型コロナウイルス感染症には、これまでの医学では説明できない不思議な特徴があるようです。新型コロナウイルスに感染しても大部分の人は無症状~軽い上気道炎症状だけで終わりますが、一部の人だけが重症化します。重症化する要因としてあげられているのが、高齢、糖尿病、高血圧や肥満などの基礎疾患です。

新型コロナウイルス症状には第1相と第2相がある

新型コロナウイルス感染者の8割は、無症状か、軽微な上気道炎症状のみで、通常は抗体が産生されウイルスが駆逐されるまでの7日間くらいで終わるようです(第1相)。ここまでは季節性インフルエンザなどに見られる一般的な急性ウイルス感染症の経過です。ところが一部の患者さんでは、7~10日目くらいに突然に肺炎が発症し、さらには重い呼吸不全を起こして死に至ることがあります。その他、腎障害、血液の凝固異常なども起こり、死因は肺炎による呼吸不全を中心とした多臓器不全に至ります(第2相)。第1相から第2相に移行する人の割合は2割くらい、悪化の危険因子は、高齢、糖尿病、高血圧、心臓病、腎臓病、肥満で、驚くべきことに、肺の基礎疾患は意外なほど少ないのが特徴のようです。

第2相では何が起こっているのか?

最大の問題は、なぜ第2相が発生するのか? です。ウイルスが減少~消失するはずのその頃に、肺などに激しい炎症が起こります。1世紀前のスペイン・インフルエンザでも第2相が見られることはあったようですが、大部分は細菌感染でした。しかし新型コロナウイルス感染者の第2相には、細菌は関与していないようで、またウイルスの直接傷害によるものでもないようなのです。
現在、重症化する第2相ではサイトカインストームが起こっていると言われています。本来ウイルスから身体を守る免疫系が暴走し、各種の炎症性サイトカイン(IL-1、IL-6、TNFαなど)が大量に放出され、これらが肺をはじめとして多くの臓器を損傷し、死に至る場合もあるようです。治療現場では、炎症性サイトカインをブロックする免疫抑制薬(慢性関節リウマチなどの治療薬)として開発されたトシリズマブやサリルマブがCOVID-19の臨床に試用され、症例数は少ないものの非常に良い治療効果が上がっていいます。

なぜ一部の人にだけ第2相が起こるのか?

これまでの医学では感染症を、病原微生物と私たちの身体に備わる免疫の一対一の戦いとして考えて来ました。
しかし従来の考え方は、近年巻き起こっているマイクロバイオーム学という新しい科学の世界によって変わりつつあります。私たちは、身体を構成する細胞以外に100兆個にもおよぶ微生物が共生し、生命を営んでいるのです。この共生菌群は、免疫システムと常に応答を繰り返しつつ、ヒトの健康と病気の成り立ちに重要な役割を担っています。もし共生菌のバランスが乱れると免疫システムの乱れをひき起こし、難治性の炎症性疾患が起こることがあります。現在、潰瘍性大腸炎、クローン病だけでなく、肥満、多発性硬化症、糖尿病など実に様々な病気がマイクロバイオームの乱れによるものであることが証明されつつあります。
ウイルス感染でもマイクロバイオームは大きく変化します。これについてはインフルエンザ感染、ノロウィルス感染などにおいて多くの研究されており、最近新型コロナウイルスにおいてもこれは確認されているようです。マイクロバイオームの変化は、病気のその後の経過に甚大な影響を与えるようなのです。
文頭で、重症化する要因として、高齢、糖尿病、高血圧や肥満などの基礎疾患があると申しましたが、これらの基礎疾患はマイクロバイオームとも少なからず関りがあります。

  • 高齢 マイクロバイオームは加齢とともに大きく変化する
  • 肥満 肥満が糖分や脂質の過剰な摂取によってもたらされるだけではなく、腸のマイクロバイオームの変容もまた大きく関わっていることは、今や定説となっている
  • 高血圧 高血圧の成り立ちにマイクロバイオームが関与している可能性も最近研究が蓄積されている
  • 糖尿病 2型糖尿病の成立にマイクロバイオームが密接に関与することも、近年、多くの研究が行われ、総説にまとめられている

などです。上記の疾患はマイクロバイオームが大きく変容している可能性があり、そのような人にウイルス感染による働きかけが起こると、免疫の暴発を起こしやすいのかもしれません。

新型コロナウイルス感染症は8割の人においては軽症のウイルス感染症に過ぎず、残り2割の人で免疫が適切に応答せずにサイトカインストームが起こることが問題なのです。マイクロバイオームの修飾を通じて過剰な免疫活動を抑えるという観点からの治療方法の模索が重要なようです。