皮下組織

私は美容鍼灸でのたるみの改善効果を研究しておりますが、美容鍼灸はちょっと敷居が高いというあなたのために、今回は自宅で手軽にできる美容マッサージについて、科学的に検証した研究論文をご紹介します。

「最近、フェイスラインがぼやけてきた…」「頬のたるみが気になる…」年齢とともに増えるお顔のたるみのお悩み。たるみ改善を期待して、美容マッサージを日々のスキンケアに取り入れている女性も多いようです。

でも「このマッサージ、本当に効果があるの?」と疑問に思ったことはありませんか?

今回は、そんな疑問に科学的な視点から答えてくれる、注目すべき研究論文をご紹介します。この研究では、美容マッサージが顔のたるみにどのような影響を与えるのかを、皮膚の内部構造の変化から明らかにしています。

なぜ顔はたるむの?原因は皮膚の奥深くに

そもそも、なぜ年齢を重ねると顔はたるんでしまうのでしょうか。

顔の皮ふがたるむ原因には、真皮網状層の老化、表情性筋膜の老化、表情筋の機能低下、リンパの貯留など様々ですが、その原因の一つに、皮膚の奥深くにある「皮下組織」の厚みにあると指摘しているのが、今回ご紹介する研究です。 上の図に示しますように、皮ふの構造は表面から、表皮→真皮→皮下組織→筋層という順に層をなしています。真皮の下にある皮下組織は、脂肪細胞やコラーゲン線維などを含んでおり、肌の土台となる重要な部分です。

研究チームが20代から60代の女性の顔を調査したところ、特に40代以降では、見た目のたるみが強い人ほど、この皮下組織が厚くなっているという明確な関係が見られました。 つまり、加齢による顔のたるみは、単に皮膚表面の問題だけでなく、その下にある皮下組織の量的な変化が大きく関わっている可能性が示されたのです。

 

 

【驚きの結果】16週間の深部マッサージで顔はどう変わった?

この研究の核心は、マッサージの効果を科学的に検証した実験にあります。たるみに悩む50代の女性たちに協力してもらい、2つのグループに分かれて16週間(約4ヶ月間)、以下の実験を行いました。

マッサージをするグループ: 毎晩、クリームを使って約5分間の深部マッサージを行う。

マッサージをしないグループ: 同じクリームを塗るだけで、マッサージは行わない。

16週間後、彼女たちの顔には驚くべき変化が現れました。

マッサージを続けたグループでは、専門家が見ても明らかなたるみの改善が確認されました。

顔の形を3Dカメラで立体的に測定したところ、頬の下からフェイスラインにかけてのたるみ部分が引き締まったことがデータで示されたのです。

目から下の皮ふのへこんだ面積を測定した結果、16週間マッサージ を続けたグループは、クリーム塗布だけのグループが平均8.6%へこんだの対して、約2.2倍の18.8%もへこみました。つまり、たるんだ顔が18.8%も引き締まったのです。

16週間マッサージ後の顔面のへこんだ面積の割合

下の写真に示すように、見た目にも口角の横のもたつきがスッキリし、フェイスラインがシャープになった参加者もいました。

16週間マッサージ後の顔の変化

 

最も注目すべきは、皮膚の内部で起きていた変化です。

さらに、エコー(超音波)で皮膚の断面を測定したところ、マッサージを続けたグループだけが、口角の下とたるみ部分の両方で、皮下組織が明らかに薄くなっていたのです。

この変化は、マッサージ開始後8週目という早い段階から確認されました。マッサージのグループは、開始前の皮下組織の厚みを100%とすると、たるみ部では16週間マッサージを続けた後は84.3%まで縮小、口角下では92.5%まで縮小しました。

一方で、マッサージをしなかったグループでは、16週間後にたるみ部分の皮下組織がわずかに薄くなる傾向が見られたものの、マッサージをしたグループほどの明確な効果ではありませんでした。

マッサージによる皮下組織の変化

このことから、クリームを塗るという行為だけでも多少の影響はあるかもしれませんが、皮下組織にまで働きかける長期間のマッサージが、より確実な効果を生み出すと結論づけられています。

結論:継続的な深部マッサージは「たるみ改善」に有効なアプローチ

今回の研究により、以下の2点が科学的に示唆されました。

加齢による顔のたるみには、皮膚の奥にある「皮下組織」の厚みが深く関わっている。

皮下組織にまで刺激を与える深部マッサージを長期間継続することで、皮下組織が薄くなり、結果として見た目のたるみ改善につながる可能性がある。

マッサージによって皮下組織がどのように変化したのか(脂肪が燃焼したのか、組織の構造が変わったのかなど)については、さらなる研究が必要ですが、美容マッサージが顔のたるみ改善に有効なアプローチである可能性が強く示されたと言えるでしょう。美容鍼灸の研究を10年間行って来た私の意見ですが、美容鍼灸は1回の治療直後にたるみ改善効果を表すのに対して、美容マッサージは長期間の継続で効果を表すようです。おそらく美容鍼灸は主に表情筋などの筋肉に作用してたるみを改善しているのに対して、美容マッサージは主に皮下組織に作用してたるみを改善ているからではないかと思います。美容鍼灸と自宅でのセルフマッサージの組合せは、理想的なリフトアップ効果を表すかもしれませんね。

研究で用いた独自のマッサージ方法とは?

これほど、たるみが縮小したフェイシャルマッサージ。どんなマッサージ方法を行ったのか、興味がありますね。では、最後に論文で報告されている、フェイシャルマッサージの方法をご紹介します。

このフェイスマッサージ方法は、クリームを使用することで滑りを良くし、皮下組織まで刺激を与えられるように考案されました。使用するクリームは、一般的な化粧品成分を含む美容クリームを用いて頂ければ良いと思います。

マッサージの手技は、下図に示すような手順で、たるみ部と頬を中心として皮膚深部までもみほぐしを行った後、たるみ部から頬上部へ向かってリフトアップを行います。マッサージを行う時間帯は、入浴後または就寝前に行います。

フェイシャルマッサージの手順

① フェイスラインをもみほぐす

② 頬骨の下をもみほぐす

③ 頬からフェイスラインで下から上へらせんを描いてもみほぐす

④ フェイスラインから頬骨に下に皮ふをよせた後、こめかみに流す

⑤ 眉頭から眉尻に向けて押さえる

⑥ 眉付近は下から上へらせんを描く

⑦ 鼻、口の周りを引き上げるようにマッサージする

⑧ ほうれい線からフェイスラインに向けてスライドする

たるみ縮小マッサージ方法

 

 

 

自宅でのセルフマッサージはクリーム以外に費用も掛かりません。毎日たった5分でも、正しい方法で根気よくケアを続けることが、未来のすっきりとしたフェイスラインにつながるかもしれませんね。

参考文献

大塚真由美, 風間治仁, 堀田光行, 棚橋昌則, 北原隆 (2010). 深部マッサージによる顔面部皮下組織の変化. 日本香粧品学会誌, 34(3), 177-184.