鍼灸で痛みを除く

「腰が痛い、膝が痛い、肩も痛いんだけど...
レントゲン検査を受けて見たものの、老化現象だから仕方がありませんね!と言われた。
痛み止めを飲んだり、シップを貼ったり、電気も当ててみたけれど、結局その場限り。
痛みがひどくて、生きて行くのも辛い。
東洋医学は、どうなんだろう?
鍼灸治療は、こんな強い痛みが出てるだけど、効くのかなあ?
でも、どこの鍼灸院へ行ったら良いのか分からない。」

これ、実際の患者さん方からよく聞く話です。
慢性の痛みはそれだけ、辛いのです。

患者さんが、お近くの方なら相談にのれるのですが、遠方ならお越しいただくわけにも行かず、お住まいの地域の鍼灸院さんを紹介して欲しいとよく尋ねられます。
残念ながら、私は研究でお世話になっている大学の先生方としか交流がないので、大学附属病院にある鍼灸センターくらいしか紹介できません。

そこで、このサイトをご覧下さいました皆さんには、是非鍼灸治療についての正しいを知識を身に付けて、ご自身でより良い鍼灸院選びをして欲しいのです。
お身体の悩みで鍼灸治療をお考えのあなたに、患者さんのための鍼灸治療のイロハをご紹介いたします。

1.鍼灸治療はいつから始まった?

中国における鍼灸治療の起源は?

中国の歴史書「史記」に記載された治療家扁鵲(へんじゃく)

人類の医療活動は、生産活動の開始と同時に始まりました。鍼灸治療の歴史は、かなり古く新石器時代(1万年前~)にさかのぼると言われています。当時の鍼治療には、中国最古の原始医療器具として知られる「へん石」「骨鍼」(こしん)と呼ばれる石の先端を矢じりのように尖った鋭利な石片が利用されていました。へんせきを患部に当てたり、浅く刺したりして、痛みを取り除いたり、また膿包を切開するためのメスとしても利用されていました。

また、暖めて患部に当てるわいほうと呼ばれる温熱治療にも利用されていました。これらの原始的な医療活動が、鍼灸の歴史の始まりと考えられています。殷の時代に亀甲文字によって記録が行われるようになると、紀元前21世紀頃より長期に渡る医療の実践経験が蓄積され、徐々に疾患に対する認識は深まっていったようです。

鍼灸の歴史に関する直接の記述は見られないものの、呪術、薬草、鍼灸治療などの本格的な医療活動が行われた結果、治療病名の記載なども見られようになりました。

鍼灸の歴史上、鍼灸治療がはっきりと記載された初めての歴史書は、中国前漢の武帝の時代に司馬遷によって編纂された中国の歴史書『史記』(しき)です。史記には、治療家扁鵲(へんじゃく)が登場します。扁鵲には気を感知するする能力があり、病人に鍼灸で刺激を与えたり、動物・植物・鉱物などを与えて、治療したとの記載があり、今日の東洋医学・鍼灸医学の歴史上の起源であると推測されています。

日本における鍼灸治療の起源は?

日本における鍼灸医学の歴史の起源は、僧侶智聡(ちそう)が仏典と共に鍼灸医学書を携えて来朝した562年とされています。その後、聖徳太子が遣隋使を派遣し、2世紀に渡って中国文化を積極的に輸入する中で、鍼灸医学も伝わりました。
平安初期には、唐で学んだ医僧が多くの医学書と共に、高度な中国鍼灸医学をが日本に伝えました。
この当時の歴史書によると、鍼灸医学は限られた階級の人のみに与えられる貴族医学で、一般庶民は民間療法や加持祈祷に頼っていたようです。

808年には平城天皇の命により100巻から成る『大同類聚方』(だいどうるいじゅほう)が編纂されました。日本の医学の歴史上、初めて編纂されたこの医学書は、日本古来の医術が失われることを危惧して、日本全国よりの民間処方、家伝治療、家伝薬、鍼灸などが収載されていました。
しかし、この大同類聚方は現存せず、当時の日本固有の鍼灸医学がどのような姿であったかは不明です。

鍼博士 丹波康頼(たんばやすより) 日本の鍼灸医学の歴史の中で、鍼灸治療に関する歴史書として現存するのが、984年に丹波康頼(たんばやすより)鍼博士によって編纂された『医心方』の第2巻は鍼灸篇です。
この医心方には、中国の伝統鍼灸医学を単に編集しただけでなく、中国鍼灸医学が日本の鍼灸医学として、独自の発展を遂げた記載が見られます。
鍼灸経絡の理論にとらわれず、実用的に鍼灸を応用しようという試みがみられます。

日本の鍼灸医療の歴史は、存亡の危機にさらされたことも幾度となくありましたが、今日まで1500年間の長きに渡り、脈々と伝えられて来た、日本人の風土、体質に合った素晴らしい医学です。

2.鍼灸での感染対策は?

厚生労働省(当時厚生省)は昭和62年2月に鍼灸を含む医療機関など関係団体に、エイズの感染防止、同年8月にはB型肝炎の予防について通達を出し、感染防止対策の推進の依頼を行っています。
鍼灸で用いる毫針(ごうしん)から、針に付着した血液や体液に含まれるウイルスによって、感染を起こす恐れがあることが、危惧されています。注射針と比較して毫針に付着する血液や体液は非常に少ないのですが、B型肝炎ウイルスの感染力は非常に強いことから、一度体内に刺入した毫針をそのまま他の人に刺入すると、感染の危険性が生じます。従って、鍼灸治療をお受けになる患者さん側からは、次のような鍼灸院の感染防止対策のポイントを参考にされて、感染症対策を充分な配慮がなされた鍼灸院選びをされることが、より安全で有効なな鍼灸治療をお受けるための指標となるでしょう。

1.感染防止のために、鍼灸院内が常に清潔な環境に保たれているか

清潔さが保たれた鍼灸施術室 薬剤の使い過ぎから、MRSA、VREなど薬剤耐性菌の出現によって、いわゆる「院内感染」が社会問題となっています。鍼灸の治療室においても、高齢者や糖尿病患者など免疫力の低下した易感染患者に対する院内感染防止対策が必要です。
易感染患者は、健康人では問題にならないような非病原菌や弱毒菌でも感染症の発症をみますので、より一層注意を払って、鍼灸院内感染の防止対策を徹底することが必要となります。

2.感染防止のために、患者ごとに手洗い、手指消毒は徹底されているか

手洗いの順序
感染防止のための手洗い方法

① 流水で洗浄する部分をぬらす
② 薬用石けんを手掌にとる
③ 手掌を洗う
④ 手掌の甲を包むように洗う(反対側も)
⑤ 指間を洗う
⑥ 指まで洗う
⑦ 親指の周囲を洗う
⑧ 指先、爪を洗う
⑨ 手首を洗う
⑩ 流水で洗い流す
⑪ ペーパータオルで拭く

擦式手指消毒を行う
消毒薬は、エタノール等の殺菌剤に加え、湿潤剤など手荒れを防ぐ薬剤の含まれたものを使用する

3.感染防止のために、針はディスポーザブル針で1回刺入のみの使い捨てにされているか

鍼灸針はディスポーザブルで1回刺入のみの使い捨てこのため、日本国内での鍼治療では「鍼灸治療における感染防止の指針」に基づいて「ディスポーザブル針」(滅菌済み使い捨て針)やオートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)などで滅菌された針を使用することになっています。毫針に付着した血液・体液の汚染の恐れのあるシャーレなどについても、同様のものを使用します。
しかし、さらに鍼灸感染症に関して厳格な立場を取るならば、毫針に関して鍼灸針製造メーカーが推奨する通り、「ワンユースオンリー」といって、1回刺入のみの使い捨てが理想的です。鍼灸針は主にステンレスで出来ておりますが、繰り返使用、加熱などにより金属疲労を起こし、それ原因となって折針事故を起こす危険性があるからです。

4.シャーレなど、血液からの感染の可能性がある院内器具は、滅菌または使い捨てか

ディスポーザブル(使い捨て)シャーレ血液・体液等の感染性がある院内器具は、できるだけディスポーザブル(使い捨て)の器具を使用します。

5.感染防止のため、タオルは清潔に保たれているか

患者様ごとに、十分に殺菌された新しいタオルを使用します。患者ごとに交換される消毒された新しいタオル

6.感染防止のため、枕カバーなどは使い捨てになっているか

枕カバーは、ディスポーザブル(使い捨て)ディスポーザブル(使い捨て)の枕カバーと胸パッドカバーを使用し、患者様ごとに枕・クッション等は、毎回消毒します。

7.感染防止のためため、ベッドシーツは使い捨てか

ディスポーザブル(使い捨て)のベッドシーツ

感染症対策のため衛生管理について不明な点がある場合は、積極的に鍼灸師に確認を取るように心掛けてください。万が一、患者さんに対して鍼灸院が取っている感染症防止対策について、正確な返答ができない場合や、不快な態度で応対されることがあったならば、患者さんご自身の安全のため、その鍼灸院は避けられた方が無難です。

3.経絡と経穴とは何か?

経絡とは

中国古典に描かれた任脈と経穴 東洋医学では、気血が流れる道筋として、経絡というものを考えています。主な経絡は内蔵(臓腑)に繋がっていて、また全身を巡っています。この経絡の中には気血が流れていると考えられています。
経絡中を気血が滞りなくスムーズに流れているとき、身体は正常な機能が営まれていると考えられています。従って、身体のどこかに異常があれば、その病態と関連する経絡のどこかに異常反応が起こります。この経絡上の反応点のことを経穴(つぼ)といい、一般にいわれるつぼとは、この経穴のことを指します。
経絡は、肺・心・肝・脾・腎・三焦の六臓と、大腸・小腸・胆・膀胱・心包の六腑にそれぞれ1本ずつ繋がっていて、さらに正中線上の表裏に1本づつ、合計で14本の正経と呼ばれる経絡が、身体を巡っています。

経絡と経穴(つぼ)の関係

経絡と経穴(つぼ)の関係は、よく全国に広がる鉄道網に例えられます。線路が経絡、駅が経穴(つぼ)、そして線路を走る電車が気血です。経絡同士も鉄道網のように互いに連絡しており、電車に相当する気血は、路線を運行する電車のように全身を巡っています。
ところが、電車が緊急停止すると鉄道網全体の運行に支障が出てくるように、何らかの原因で気血の流れが停滞してしまうと、経絡のネットワークも異常を起こし、身体のバランスが崩れて身体のあちらこちらに様々な症状が現れてきます。

経穴(つぼ)の反応と東洋医学的診察

皆さんもマッサージなどを受けて感覚的にご存じかも知れませんが、経絡上の経穴(つぼ)は、圧すると痛みを感じたり、気持ちよかったり、硬くて塊のようなもの感じたり、柔らかくてへこんでしまったり、色々な反応を示します。東洋医学的な診断を行うときはこの反応を利用して、原穴診、背候診、経絡診など、どの経絡のどの経穴(つぼ)に異常な反応があるかを調べます。
日本では、胃の痛みに効く経穴(つぼ)とか便秘に効く経穴(つぼ)とか、病気に対してそれぞれ対応する経穴(つぼ)を刺激して治療するのが一般的です。しかし、中国で行われている最新の中医学では、経穴(つぼ)の色々な働き(=機能)について研究されています。一つ一つのツボが身体に対してどのような作用や治療効果を現すのかを研究して、漢方薬の処方構成のように、鍼灸の経穴(つぼ)処方を作って行くのです。この考え方によって、1+1だったツボの効果が、3倍にも5倍にも相乗効果が現れるようになります。
これまで、治療家個人の経験則に委ねられていた鍼灸が治療が、高度な理論的鍼灸治療に置き換わって行くのですね。因みに、私の研究テーマもこの「穴性学」や「鍼灸処方学」で、さらには湯液と鍼灸処方を融合したより高度な東洋医学的治療を目指しています。

4.日本と中国の鍼、特徴と違い

日本の鍼(はり)の特徴

古代九鍼 鍼灸治療で用いられる鍼(はり)には多くの種類がありますが、現在の日本で多く用いられている鍼灸針の特徴は、紀元前の中国で著された黄帝内経(こうていだいけい)という医学書に記載されている古代九鍼(こだいきゅうしん)の中の毫鍼(ゴウシン)と呼ばれるタイプの鍼がベースになっています。

この鍼灸治療の毫鍼(ごうしん)は、下の図に示されるように鍼柄(しんぺい)・鍼体(しんたい)・鍼尖(しんせん)からなります。
日本で使用されるごう鍼の各部名称

毫鍼を皮膚に刺入する方法としては、針管を用いた管針法が一般的です。この刺入方法は、江戸時代の鍼灸師である杉山和一という人が考案した方法で、細い針を痛み無く刺入する事ができます。
杉山和一が考案した各種鍼管
毫鍼(針)は時代を経て、材質や形態が徐々に改善され、現在では安全の面から、ステンレスを用いた使い捨て(ディスポーザブル)針が普及しています。
毫針のサイズは針体の長さと太さによって現されます。長さは30mm~50mm、太さは0.16mm~0.25mmまでが一般的に用いられています。

中国の鍼(はり)の特徴

中国も毫鍼(針)を用いますがその違いは、鍼(針)柄をつかんで押しながら刺入する方法を取るため、滑り止めの効果を狙って針柄が巻きがらとなっていることです。長さは25mm~75mm、太さは0.32mm~0.38mmと日本の針と比べると太くて長いのが特徴です。
中国で使用される鍼

日本の鍼(はり)と中国の鍼(はり)の違い

患者さん側からみると、日本の針のは繊細で刺入の際の痛みがほとんどないのが特徴で、滅菌済みで使い捨てのため安全性も高く、そういったことから世界中で日本の針が広く普及しています。

5.お灸(きゅう)と艾(もぐさ)

施灸に使用されるもぐさ  お灸(きゅう)の材料の選択は古来より色々と試みられて来たようですが、ヨモギの葉がもぐさに使われるようになったのは、中国の春秋戦国時代(BC8~3世紀)頃だとと言われています。もぐさは、ヨモギの葉の裏に密生している産毛のような毛茸(もうじょう)と呼ばれる部分を精製したものです。ヨモギは、非常に燃えやすい性質があり、燃え草と呼ばれていたことから、それが転じてモグサになったと言われています。名前が示すように、非常に燃えやすいことから、お灸に利用されるようになったのでしょう。

艾(もぐさ)の効果、ヨモギの有効成分

もぐさの原料になるヨモギ ヨモギは元々、艾葉(がいよう)と呼ばれていて、解熱・利尿・止血・健胃・調経などの作用があり、漢方薬に用いられて来ました。精油と呼ばれる揮発性成分を多く含み、その主成分はチネオールです。もぐさを燃やすと独特の良い香りがするのは、チネオールが燃焼する際に発するものです。艾(もぐさ)は、これらの精油成分が含まれるお陰で燃焼温度が低く、生体に緩和で心地よい温熱感を与えます。

艾(もぐさ)の製法

艾(もぐさ)は夏に刈り取られたヨモギを乾燥→細かく裁断→石臼で挽く→ふるいにかける→もぐさの過程を経て製品になります。製造過程でふるいにかける回数が多いほど品質の良い「上質モグサ」になります。上質モグサはふんわりと柔らかく、香りが良く、淡黄白色をしていて、燃焼温度が低く早く燃え尽きるのが特徴で、お灸に用いられます。
一方、夾雑物を多く含むモグサは粗悪もぐさと言われますが、けっして品質が悪いわけでなく、燃焼温度が高いため、棒灸などとして、隔物灸や温灸療法に用います。

6.WHO(世界保健機関)が鍼灸治療の効果を認めた病気

WHO世界保健機関 世界保健機関(WHO)が1978年に「アルマアタ宣言」を発表してして以来、鍼灸治療や漢方薬治療のような伝統医学に対する門戸が開かれました。そこでは伝統医学に対して、「現代科学的医学の確立及びその普及以前に存在した考え方に基づいた治療法で、かつ今日においていても実践されている総称である」と定義しています。
その中でも今なお多くの人々が広範囲で実践し、体系的な理論的裏付けのある伝統医学を「世界三大伝統医学」と呼称し、鍼灸医学は中国伝統医学としてその一つに位置づけられています。これを契機に、非正当医学、周辺医学とさげすまれていた伝統医学が、世界的に再認識されるようになりました。
WHO(世界保健機関)で鍼灸治療の効果を認めた病気には、次ぎのものを挙げています。

神経系疾患に対する鍼灸治療効果

◎神経痛・神経麻痺・痙攣・脳卒中後遺症・自律神経失調症・頭痛・めまい・不眠・神経症・ノイローゼ・ヒステリー

運動器系疾患に対する鍼灸治療効果

関節炎・◎リウマチ・◎頚肩腕症候群・◎頚椎捻挫後遺症・◎五十肩・腱鞘炎・◎腰痛・外傷の後遺症(骨折、打撲、むちうち、捻挫)

循環器系疾患に対する鍼灸治療効果

心臓神経症・動脈硬化症・高血圧低血圧症・動悸・息切れ

呼吸器系疾患に対する鍼灸治療効果

気管支炎・喘息・風邪および予防

消化器系疾患に対する鍼灸治療効果

胃腸病(胃炎、消化不良、胃下垂、胃酸過多、下痢、便秘)・胆嚢炎・肝機能障害・肝炎・胃十二指腸潰瘍・痔疾

代謝内分秘系疾患に対する鍼灸治療効果

バセドウ氏病・糖尿病・痛風・脚気・貧血

生殖、泌尿器系疾患に対する鍼灸治療効果

膀胱炎・尿道炎・性機能障害・尿閉・腎炎・前立腺肥大・陰萎

婦人科系疾患に対する鍼灸治療効果

更年期障害・乳腺炎・白帯下・生理痛・月経不順・冷え性・血の道・不妊

耳鼻咽喉科系疾患に対する鍼灸治療効果

中耳炎・耳鳴・難聴・メニエル氏病・鼻出血・鼻炎・ちくのう・咽喉頭炎・へんとう炎

眼科系疾患に対する鍼灸治療効果

眼精疲労・仮性近視・結膜炎・疲れ目・かすみ目・ものもらい

小児科疾患に対する鍼灸治療効果

小児神経症(夜泣き、かんむし、夜驚、消化不良、偏食、食欲不振、不眠)・小児喘息・アレルギー性湿疹・耳下腺炎・夜尿症・虚弱体質の改善

7.欧米で評価される鍼灸治療の効果

カリフォルニア州鍼灸大学院大学 それから約20年後の1997年、米国では様々な疾病に対する鍼治療の効果を明らかにするため、鍼業界や連邦当局から独立した専門家によって、「鍼療法に関する合意声明書」が作成されました。そこでは、鍼治療の有効性が数多く報告され、その報告が世界的に反響を呼んだのです。「補完・代替医療」(CAM:complementary and Alternative medicine)と呼称されるまでに高く評価され、今日まで研究および医療実践が活発化しています。

最近の米国では、医療費削減の目的で鍼治療を保険でカバーする保険会社が増加しており、補完代替医療の受診者は、プライマリーケア医の受診者より多くなったという報告もあります。

右上の写真は、需要が増す米国国内での鍼灸治療専門家を養成するため、私の通っている大学がカリフォルニア州に設立した鍼灸大学院大学です。現地では鍼灸治療の他、漢方薬に関する講座も設けられていました。

欧州でも、英国では医師会の承認を得て鍼治療の臨床研究が行われ、鍼治療の有効性が報告されました。さらにフランスでは、国民の50%以上の人が補完代替医療を利用しており、医師の約80%が鍼治療の経験があると報告されています。

日本でも、海外での評価が逆輸入される形で、鍼灸治療など補完代替医療に対する関心も徐々に高まりつつありますが、法律上で鍼灸治療は未だ「医療類似行為」でありますし、療養費払いという形態での健康保険の適応も医師の同意書が必要で、国民にはあまり普及していません。日本での伝統医学の大きな柱である鍼灸治療が、国民の健康に寄与し、これらの補完代替医療によって国の社会保障費が少しでも削減できる私の夢は、まだまだ遠い先のようです。

8.鍼の診断と治療方法

タイトル
まず、鍼治療は鍼治療のバックグランドになっている医学理論が、西洋医学(現代医学)か東洋医学かによって、診断と治療方法が異なります。

東西医学理論の違いによる鍼の診断と治療

西洋医学的な鍼治療を行う場合は、医師などの診断を基本において、障害の部位、病態、重傷度などを明らかにして、障害部位を中心に、その近くのツボ(経穴)、障害と関連する神経や血管を目標にしたツボ、経験的に効果のあるツボを中心に治療していきます。
東洋医学の中でも中医鍼灸学は、患者さんの病気の症候や病理の変化を診断(弁証といいます)し、その証(ショウ)に基づいた治療、標治法本治法、陰陽の調整、補虚瀉実、因時因地因人などに応じた鍼治療を行います。

手技の違いによる鍼治療

鍼施術中の風景 最も一般的に行われる鍼治療の手技は、鍼を目的とする部位まで刺入した後、10~20分間そのまま置いておく置鍼術(チシンジュツ)と、目的の部位で軽く鍼を上下に動かす雀啄術(ジャクタクジュツ)の組み合わせです。

中国では、この他、古代文献に示される八法の一つである三進一退の補法の手技である焼山火(ショウザンカ)や、一進三退の瀉法の手技である透天涼(トウテンリョウ)が用いられます。

他の治療法と組み合わせる鍼治療

低周波鍼通電治療 特殊な鍼治療として、刺入している鍼に微弱な電流を流す低周波鍼通電治療や、鍼の頭にモグサをつけて燃やす灸頭鍼(キュウトウシン)治療などがあります。
低周波鍼通電治療は、高い鎮痛効果が期待できることから、頑固な痛みに用いられます。かつて無痛分娩など針麻酔として紹介された鍼治療も、この低周波鍼通電法です。また、神経麻痺やなど神経障害の鍼治療や、パルス通電を利用して筋肉を強制的に動かすことで、神経障害から筋肉の拘縮する事を防ぐ目的でも使用されます。

特殊な形状の鍼と治療法

皮内鍼(ひないしん)円皮鍼(えんぴしん) 鍼治療に一般的に使用される毫鍼(ごうしん)以外にも、皮膚内に留めて置く皮内鍼(ひないしん)や、小さな画鋲のような円皮鍼(えんぴしん)といった鍼治療法があります。これらの鍼は、細く刺入深度も浅く刺激量が少ないながらも、数日間刺入しておくことで、治療効果の持続を狙った鍼です。さらに、皮膚に接触させて刺激を与えるだけで、刺入しない小児鍼治療などもあります。この鍼は、主に子供の治療や、刺激に過敏な大人に対して使用する治療法です。

以上のように、鍼治療に使用する鍼や治療方法には様々な方法がありますが、鍼の治療目的に応じて使い分けたり、組み合わせるなどして、鍼治療が行われます。

9.お灸(きゅう)のすえ方、治療方法

お灸(きゅう)のすえ方、治療方法
灸治療の方法には、お灸(きゅう)のすえ跡を残す有痕灸(ゆうこんきゅう)とすえ跡を残さない無痕灸(むこんきゅう)があります。

有痕灸

有痕灸には、透熱灸、焼灼灸、打膿灸などがあります。
それぞれのお灸治療方法を、見てみましょう。
・透熱灸
灸のすえ方(透熱灸) 透熱灸は、一般的に広く行われている灸法で、糸状、半米粒大などもぐさを小さくひねって、皮膚上の一定点に適量施灸します。
・焦灼灸
焦灼灸は、施灸部の皮膚や組織を破壊してします灸法です。ウオノメ、イボなどに直接しかも反復して施灸する事で、組織を破壊してかさぶたになって剥がれ落ちるまで繰り返します。
・打膿灸
打膿灸は、大きなもぐさを使用して、皮膚を火傷させます。灸跡に樹脂膏その上で絆創膏を貼るなどして、化膿を1~1ヶ月半ほど持続させ、その間、経穴(つぼ)への灸刺激が持続します。お灸の効果が長続きするのは良いのですが、施灸後の炎症が強く、感染症を起こしたり、皮膚の深部までケロイド状の火傷を残すので、皮膚がんなどへの不安などから、最近ではあまり用いられなくなりました。

無痕灸

灸痕を残さないように、強い熱感を与えないお灸の方法です。火傷跡が残らず穏やかに熱刺激を皮膚に伝達させて、効果的な生体反応を期待することができます。
・隔物灸
灸のすえ方(隔物灸) 燃焼するもぐさと皮膚の間に、物を挟んで施灸する方法で、間に挟む物体によって名前が付けられています。ニンニク灸、ショウガ灸、塩灸、ニラ灸、墨灸などがあります。
・温灸
温灸器  もぐさや棒もぐさ、電気式の発熱体を持つ温灸器などを用いて、赤外線や遠赤外線などを皮膚に当てて、身体に温熱効果を与える灸法で、中国では灸よりこちらの温灸療法を用いることが多いようです。日本では、びわ温灸などが有名です。

10.鍼灸の効果、鍼灸理論

 鍼灸はなぜ効果があるのでしょうか。これまでの研究で明らかになった鍼灸理論をご紹介します。

脳・脳幹・脊髄など中枢神経系を介しての鍼の鎮痛効果

鍼灸の鎮痛メカニズム(下行性痛覚抑制系〉 鍼灸の刺激は皮膚や筋肉など体表に分布している感覚神経を刺激し、脳・脳幹・脊髄など中枢神経系をを介して効果を表すと考えられています。

鍼の理論を例に挙げますと、鍼は体表の細い感覚神経を刺激し、中枢神経内に天然のモルヒネのような物質「内因性オピオイド」を放出させて、痛みを抑える機構、すなわち「内在性鎮痛機構」を賦活し、脊髄レベルで痛みを伝える神経の興奮をブロックします。
また、同時に鍼刺激は太い感覚神経をも刺激して、脊髄で反射性にブロックする機構を作動させます。これは、身体の一部をどこかにぶつけた場合に、その部分を手でさすると痛みが和らぐのと同じ理論です。

何れにしても、鍼の鎮痛作用は、中枢からの抑制系と脊髄の抑制系の二重の機構で痛みをブロックします。これが鍼灸の鎮痛理論で、大変良く効きます。

自律神経を調整して、血流を改善する効果

自律神経を介した血流改善効果 また、通常激しい痛みがある場合は、自律神経のうちの交感神経が過度に緊張して、痛みのある部分の末梢血管を強く収縮します。それと同時に、運動神経系も興奮するので筋肉を収縮させ、さらに血管が収縮して、血液の流れを阻害してしまいます。こうなると、発痛物質などの代謝産物が一層停滞するので、さらに痛みを増強する結果になります。これがいわゆる「痛みの悪循環」と呼ばれる現象です。
鍼はこの悪循環を断ち切り、内在性の鎮痛系を賦活させると共に、筋肉の緊張を緩め、血行を増加させることができます。これも鍼灸の鎮痛理論の一つです。

11.鍼灸の副作用

鍼灸治療における副作用について紹介しましょう。
「副作用」とは、治療過程の中で目的とする治療効果以外の作用が出ることです。現代医学の治療に比べると随分少ないのですが、鍼灸にも僅かながら副作用はあります。鍼灸の治療をお受けの患者さんにも興味深い話である、鍼灸の副作用についてご紹介します。
鍼灸の副作用

鍼治療の副作用

鍼治療で起こる副作用には、刺入痛、点状出血、皮下出血、抜鍼後の痛み痒み、鍼痕、ふらつき、倦怠感などです。これら鍼の副作用の出現率は、1000人に1~2人と非常に少ないです。
刺入痛はすぐ抜鍼すれば治まりますし、出血の場合は、アルコール綿花で圧迫すればすぐに止まります。皮下の内出血は、数日すると吸収されて消えてしまいます。抜鍼後の鍼痕は、鍼を抜いたときに、皮膚が数mm程度ふくれる現象ですが、軽く皮膚を揉むことで消失してしまいます。
鍼治療後に、怠さや倦怠感を感じることがあります。これはこれは鍼の副作用と言うよりむしろ、治療効果と呼ぶべきものかもしれません。
鍼治療によって、患者さんの持つ治癒力を導き出すため、身体が副交感神経が優位になるため感じる感覚です。鍼治療は基本的に身体のバランスを整える治療方法で、患者さんの持っている自然治癒力=生体防御の働きを利用しています。
従って身体が良くなろうとするときは、内臓をはじめ、身体を修復させるために、副交感神経が優位になるので、心地よい怠さを感じるのです。この場合は、無理せず横になるなどして身体休めてあげることが効果的で、身体の快復を早めます。
但し、鍼治療の後、次のような場合のは、時に脳貧血を起こしたり、気分が悪くなるなどの副作用が起こることがありますので、注意が必要です。過度の睡眠不足、極度の疲労、飲酒、空腹など体調不良があるときに行う鍼治療です。
また、鍼治療が初めてで精神的な緊張が過度となったときも、同様の症状が現れることがあります。もし、治療中に気分が悪くなったら、すぐに治療家に申し出て下さい。状態に応じた対処をしてもらえます。

灸治療の副作用

灸(きゅう)治療で起こる副作用には、灸あたりと火傷があります。
灸あたりとは、一度に多くの箇所に多数のお灸をすえた後に起こる熱っぽい症状や倦怠感などの症状のことです。数日すれば回復しますが、その間は無理せずゆったりと過ごすようにして下さい。
火傷は、昔ながらの大きなお灸をしたり、透熱灸を行うと、必ず起こります。同じ箇所に正しく重ねるようにお灸をすえることで、火傷は少ない範囲に収まります。
火傷や灸痕が嫌な方は、施術者にその旨を申し出て下さい。糸状灸や八部灸、または温灸などの施術を行うことで、火傷や灸痕が付くなどの副作用を回避することができます。

12.鍼灸の診察・診断方法

鍼灸治療では、最適な治療方針を導くために診察を行います。この鍼灸の診察にも、西洋医学(現代医学)による場合と、東洋医学に基づいて診察を行う場合があります。
中医診断学

西洋医学による鍼灸の診察

西洋医学による鍼灸の診察は、医師の行った病名診断を元に、障害部位の圧痛点や拘縮部位、関節などの場合は可動域の制限や、徒手検査などで診察しながら、鍼灸の治療方針を立てて行きます。医師の同意書を得て、療養日払いで健康保険を利用する場合は、医師の診察によって診断された病名(西洋医学)に基づく、鍼灸治療を行うことになります。

東洋医学による鍼灸の診察

東洋医学の診察にも、脈差診や腹診など日本古来の伝統治療法による診察と、中国の伝統医学である中医学に基づく診察がありますが、ここでは、私の治療院で採用している中医鍼灸学の診察方法をご紹介します。

中医鍼灸学の特徴は、「弁証論治」にあり、病名が同じでも、その人の体質や病気の進行状況が違うと、治療方法が異なります。中医鍼灸学での診察は、病因や病気の進行過程をも含めた病気全体の総合分析を行い、「証」を診断する手法を取ります。この診断手法を中医学では「弁証」と呼んでいます。弁証により病気の診断が出来れば、中医学の治療原則に従って、適切な治療法が決定されます。そしてこのことを「論治」と呼び、診察・診断・治療全体の流れを「弁証論治」と呼んでいます。

中医鍼灸学では、正確な弁証論治によって患者様に最適な治療を提供します。そのため、「望診」、「聞診」、「問診」、「切診」の4つの診察方法を行います。中医鍼灸学での生体観は「心身一如」の立場をとり、身体の様々な所見を心身との関係で理解しようとします。そこで、身体各部の体表面に現れる様々な反応を、心身の変調の信号として五感でとらえるためには、この四診が必要なのです。
・望診(視覚情報による診察
目で見る診察方法です。目の輝き、顔面や皮膚の色・艶・発毛状態、舌の色や形態、患者さんの動作・仕草などを観察します。
・聞診(聴覚・嗅覚情報による診察)
音色、声の調子、話し方など聴覚情報や、体臭・分泌物の臭気などの臭覚情報から観察します。例えば患者さんの声の調子や話し方から喜怒哀楽の感情情報や、胃熱などでの口臭を察知します。
・問診(質問形式による診察)
西洋医学と同様質問による情報収集で、中医鍼灸学の場合、より患者さんの自覚症状を尊重します。問診では身体的愁訴だけでなく、精神状態、生活習慣、生活環境や天候・季節の影響についても詳細に聴取します。すなわち、患者さんを取り巻く環境と心身の機能状態との関連を把握しようと努めます。
・切診(触覚による診察)
直接患者さんに触れる診察方法です。具体的には、

  • 手首の脈の拍動に触れ、臓腑経絡の変調を診る脈診
  • 体表部に現れる温冷・緊張・硬結・圧痛などを診る腹診や背候診
  • 経絡上を触れて、経絡上の異常を知る切経

などを行います。

13.鍼は痛いですか?

鍼(はり)は痛いのでは?これは初めて鍼治療を受ける人にとって、一番に思い浮かぶ不安ではないでしょうか。

私たちの日常生活で、縫い針を誤って刺したらすごく痛いですし、棘が刺さってもとても痛く感じます。
また、縫い針ほどではないにしろ、注射の時も少なからず痛みや恐怖心を感じる人も少なくないと思います。
実際、私の治療院にお越し下さる患者さんは鍼治療が初めての方が多いですから、治療前の診察の際、同様の質問を良く受けます。
合谷穴に刺入した鍼灸用豪鍼
鍼が痛くなければ身体に刺激を与えられないのだから、効果もないのではと考える方もいらっしゃるようですが、痛みなど鍼治療の苦痛をできるだけ味あわずに、心地よく最大の鍼治療効果を上げることができたらこれに越したことはありませんね。

刺入時の痛みが起こりにくいように工夫します

鍼治療は何千年もの臨床経験の中で、刺入時の痛みが起こりにくいように工夫されてきました。
特に、日本の鍼に使用される鍼は0.18mm~0.20mmと非常に細いため、痛みを感じにくくなっています。これだけ細い鍼ですと鍼治療時の取り扱いが難しくなりますので、刺入時に鍼管と呼ばれる管を使います。鍼管は鍼刺入時のたわみから生じる痛みを抑えると同時に、鍼管の底辺部が皮膚を引き延ばして切皮痛を和らげます。
また、現在、日本の鍼治療で使用される毫鍼(ごうしん)の先端は松葉型と呼ばれる形状をしていて、鍼管法に用いるには理想型と言われています。毫鍼(ごうしん)は組織をメスのように切るのではなく、かき分けるようにして侵入して行きますので、生体組織の破壊が少なく、鍼の痛みも少ないと言われています。
さらに、鍼灸治療家側も色々な手技を使って、できるだけ痛みのない鍼治療に努めます。その結果、鍼治療時には、縫い針を刺したような強い痛みはほとんど感じないのが普通です。
皆さんも、安心して鍼治療をお受け下さい。

14.灸は熱い?やけどが心配?

灸(きゅう)は熱いの?やけどが心配なのですが?
お灸は、皮膚の上でもぐさを燃やすのでから、さすがに熱さは感じます。モグサの燃焼部分の温度は、数百℃もあるからです。
しかし、昔に比べて、現在鍼灸治療院で使用されるもぐさのサイズは非常に小さく、もぐさの大きさは米粒大か半米粒大です。

お灸の熱さはどの程度?

実際にお灸をすえて皮膚表面での温度を測定してみると、最大でも60~80℃ほどの熱さで、皮膚面まで燃えるとすぐに消えてしまいます。
従って、皮膚で感じる熱さの感覚は、熱いというよりもむしろ「チカッ」とする痛みのように感じられることが多いようです。私自身もそうですが、馴れると熱さの感覚がとても心地よくなって来ます。

お灸の痕(あと)は

しかし、小さいながらも、僅かなやけど、灸痕が残ることがあります。そこで最近では、やけどや灸痕を残すことを嫌われる患者さんのために、80%ほどもぐさが燃えたところで火を消してしまう八部灸や、糸クズ状の糸状灸と呼ばれる非常に細く小さく撚ったお灸をすえることが多くなりました。
また、身体を温めることが目的でお灸を受けられる場合は、枇杷(ビワ)の葉温灸などのような温灸療法を受けられることをお奨めします。やけどや灸痕も残らないですし、何より心地よい感覚で治療を受けていただけます。びわ葉を用いた温灸

15.健康保険での鍼灸治療の適応症は?

日本では、鍼灸治療というと、肩こり治療の代名詞と呼ばれるくらい、運動器系疾患、つまり整形外科系疾患の治療というイメージが強くあります。

実際に鍼灸治療は、肩・頸・腰・膝などの運動器系疾患に疾患に伴う「痛み」対する緩和目的での治療が大半です。鍼は、中枢神経内に天然のモルヒネのような物質を放出させて、脊髄レベルで痛みを伝える神経の興奮をブロックしたり、脊髄で反射性にブロックする機構を作動させて、痛みを止める効果があるので当然かも知れません。従って国内では、鍼灸施術の適応病名として下記の6つの認められており、療養費扱いでの鍼灸施術を健康保険で取り扱うことができます。

  • 神経痛
  • リウマチ
  • 頸腕症候群
  • 五十肩
  • 腰椎症
  • 頸椎捻挫後遺症

しかし、鍼灸はこれらの運動器系疾患に有効なだけでなく、本来、急性疾患から慢性疾患に至るまで、様々な疾患に広く治療効果を現します。鍼灸治療の基礎となっている中国医学は、本来王様のための医学、すなわち宮廷医学として発展を遂げた経緯があるためです。
そのため宮廷医学は、外科学よりもむしろ内科学が中心で、王様が内科的疾患つまり慢性病を治療するため内科学を中心に発展して来ました。
また、王様が長生きをするための不老長寿を研究した予防医学でもあり、そして子孫を残すための不妊治療つまり産科医学でもあります。
これらは、現代人が抱えている身体の悩みの解決の一助となりえるものであり、今後、されに鍼灸医学の有効性が検証されていくことになるでしょう。
なお、世界保健機関(WHO)で認められる鍼灸適応症は先に示した通りで、広範な疾患に鍼灸の有効性が認められています。

16.良い鍼灸治療院の選び方

1.基盤となる医学の違いによる鍼灸治療院選び

鍼灸治療院というところは、鍼師、灸師という国家資格を持った治療家が、基本的には鍼ともぐさで治療を行うところです。鍼治療や灸治療は、身体に何も足したり、引いたりすることはありません。生体に適度な刺激を与え、もともと身体に備わっている生体防御の力(恒常性維持機能)、すなわち自然治癒力を発動させて身体を快復させる治療法です。
鍼灸治療院を選びの際、それぞれの鍼灸治療院によって、その鍼灸治療の基盤となる医学に違いがあることを知っておいて下さい。基本的には西洋医学と東洋医学の治療手法分けられるのですが、さらに東洋医学にも日本や中国の伝統的治療手法を基盤としたものや、混合型など、大別すると以下の3つになります。

  • ① 西洋医学的(解剖・生理など)な理論を持って組み立てる治療手法
  • ② 古来から伝わる東洋医学的(古典的)な理論に従って組み立てる治療手法
  • ②-1.日本の伝統的鍼灸医学に基づく経絡治療
  • ②-2.中国の伝統的鍼灸医学に基づく中医鍼灸治療
  • ③それぞれ①と②の混合型です

西洋医学では、運動器(整形)、消化器(内科)、泌尿器、婦人科、耳鼻科などの診療科目に分かれていますが、アプローチの仕方に違いがあるにしろ、いずれの鍼灸治療院もこれらのすべての疾患を対象として治療しています。

日本では、統一されたスタイルはなく、おのおのの鍼灸治療院において鍼灸師が独自の手法を持って取り組んでいるのが現実で、中でも得意とする疾患分野は当然あります。どの鍼灸治療院が良いかは、治療方法の違いよりも、患者さんのニーズにいかに応えられるかだと思います。

充分な説明と同意は鍼灸治療院選びの重要要素

現在の医療現場では、お医者さんと患者さんとの間で交わされるインフォームド・コンセント(医師の医療内容を示す説明と治療に対する患者の同意)が重要視されています。この「説明と同意」の重要性は鍼灸治療院としても同じことですから、鍼灸治療院の先生と十分お話しのうえ、納得されるまで説明してもらえる鍼灸治療院選びが大切です。
また、私の出身した養成校で行われました、鍼灸治療院へ通院された患者さんの満足度に関するアンケート調査では、治療効果はもちろんですが、施術者への信頼度、訴えの理解度、尋ねやすさ、説明のわかりやすさ、などが上位に挙げられています。東洋医学には「気」の概念が根底にあります。説明の中で、気が通じる=コミュニケーションがうまくいき、「この先生なら…」と思っていただけることも、鍼灸治療院選びの大きな要素となるでしょう。

衛生管理も鍼灸治療院選びの重要要素

良い鍼灸治療院選びには、経営規模や設備などの外見よりも、いかに衛生面に配慮(衛生管理)されているかが重要です。

治療所の清潔さ(シーツなども使い捨てがベスト)、鍼の管理(1回限りの使い捨ての鍼が理想です)、施術者の手指消毒(毎回手洗いと手指消毒が徹底されているかなど)、患部の消毒などに注目して見てください。担当された先生の衛生観念は、施鍼時の消毒の丁寧さで判断できるでしょう。

患者の皆さんは、ご自身の健康を鍼灸師に預けるわけですから、特に鍼灸治療院の衛生管理については、慎重になって頂きたいと思います。

衛生管理は鍼灸治療院の先生方の治療姿勢を反映するものですか、より厳格な衛生管理を行っているかどうかが、良い鍼灸治療院選びの指標の一つになります。

16.鍼灸治療を受ける患者さんの心構え

私たちのからだの遺伝子に刻まれた情報は縄文時代の頃から変わっていないのに、科学技術の発展の結果、私たちを取り巻く環境は、僅か数十年のあいだに大きく変化しました。食べものや飲みもの、吸い込む空気、仕事の質や量、精神面でのストレスや負担など、からだに大きな影響を与える環境の変化はものすごく多くなっています。
その結果、私たちの体質はどんどん悪化し、慢性鼻炎、慢性気管支炎、高血圧症、糖尿病、痛風、がんなど、様々な慢性病が増えました。
慢性病は、一般に、症状には急激な変化がないが、長びいてなかなか治らない病気を指します。慢性病は体質病と言われるくらい体質と関係しており、免疫力の低下や自律神経系の失調、ホルモンバランスの変化など、身体全体のバランス失調ともかかわっています。

東洋医学の病気のとらえ方

西洋医学のベースは、科学技術ですから、正確さと再現性を求めます。人間の心と身体を切り離して身体を機械のごとく、臓器、組織、細胞、遺伝子といった要素に還元して、その構造と機能を明らかにして、病気の原因を診断します。その診断結果に基づいて、病気の原因となった臓器の壊れた部分を元に修復したり取り替えたり、原因が病原菌にある場合は殺してしまおうという治療です。患者の心の状態、生活習慣や個人の持つ固有の体質いかんに関わらず、誰もが一定の効果を発揮できるように、治療方法が確立されています。その分、効き目がシャープですが、副作用も明確に出現します。

一方、漢方薬や鍼灸など、東洋医学には、整体観とい考え方が根底に流れています。人体は、様々な機能や物質が有機的に関連しながら、一つになった有機体であるという考え方です。人体の中を流れる構成成分には気・血・津液などがあり、人体を構成するものとして、六臓六腑があります。
さらに、東洋医学は肉体と心の関係も重視していて、心の動きは身体に影響を与え、逆に身体の状態が心の状態に影響を及ぼすのです。心と身体の関係は「心身一如」と呼ばれ、東洋医学の考え方の基本の一つになっています。身体全体は、単なる部分の融合体ではなく、総和以上の有機体と捉えていて、部分が全体を構成するというより、全体が部分を規定すると考えています。
東洋医学のいう健康的な状態とは、身体流れる気血が充実していると共に、合わせて臓腑も正常に働いている状態をいい、これを正気が充実しているといいます。従って、正気が弱ったり、身体のバランスが崩れた時に、病気になるのです。病気の本質的な原因は、身体の中=体質の悪化にあるのであって、外部からの要因は病気の単なる引き金にすぎないと捉えているのです。

東洋医学的思考と鍼灸治療

東洋医学のいいところは、困った病気や症状を一時的に抑えるのではなく、からだの内側から、それらを根本的に治していくところです。ちゃんと病気の根本原因から見直して、元気なからだに戻したい、そんなときに東洋医学が役に立つのです。

東洋医学の立場からいえば、病気、特に慢性病にかかったなら、多くの部分は自分自身のせいなのです。自分では正しいと思っていた生活習慣や考え方、生活を取り巻く環境などが、自然の法則から外れてしまった結果、体質が悪化し、病気になってしまったのです。自分の身体の体質を改善しながら、病気を根本的に治して行こうというのが、東洋医学の治療の考え方です。私の治療院にも、「鍼でがん治りますか」「先生、痛みをすぐ止めて下さい」「先生、いつまでに治りますか」と時々質問されることがあります。お気持ちはよく解るのですが、東洋医学はそんな即物的なものではありません。病気は自分の生命力で治す、または共存する、そのためには生活習慣を見直し、その上で漢方薬や鍼灸治療の力を借りる、そういった意識が病気を回復させるキーポイントとなります。

例えば、湿疹は、たまたま皮膚のぶつぶつや赤み、あるいはかゆみとして自覚できるようになった病気ですが、その奥には、体調の不良や抵抗力・免疫力の低下、疲労の蓄積、ストレスの荷重、暴飲暴食、不規則な生活など、そのもととなった根本原囚がかくされている。それを、表面的に症状を抑えることによってやり過ごすのももちろんひとつの方法でありますが、そうではなく、からだの内側からきちっと治しておこうというのが東洋医学です。
うつ症状や自律神経失調症なども同じです。抗うつ剤や安定剤、抗不安薬や睡眠導入剤でやり過ごすことが必要な場合もありますが、時間をかけてでも、もとの安定した精神状態をとりかえそうと試みることも必要です。

このように、時間はかかってもいいから自分のからだを大事にあつかいたい、あるいは、からだの中から元気になりたいという、このような東洋医学的生活態度が鍼灸治療には必要です。東洋医学的生活態度を取り入れると、鍼灸治療の効き目もぜんぜん違って来るのです。
人の生き方に対して、私たち東洋医学の治療家がとやかく立場ではありません。ただ、鍼灸の良く効く人と効かぬ人、患者さんによって歴然とした差が出るこの違いは、東洋医学的思考を持てるか否かです。打撲など急性病ならいざ知らず、慢性病に対して早急な治療結果を求める方、治療にのみ依存される方は残念ながら、鍼灸治療には向きません。鍼灸は患者さんの持つ正気の強さに依存しますので、患者さんの東洋医学的思考が必要なのです。

東洋医学的思考は、自分自身の心と身体を愛し、将来にわたり大切にあつかおうとする思考です。過去や今の自分を否定せず、今よりもよりよい状態、つまりよりよく生きる姿勢をめざします。いのちを大切にし、身体を一つの小宇宙ととらえて、全体としてどちらに向かうのがよいのかを探ります。病気になる前に、出来るだけ体質を改善して病気を予防するよう心掛ける、感謝を忘れない、この東洋医学的思考から生まれた薬が、漢方薬であり、治療手技が鍼灸治療です。

最後まで、ご覧下さいましてありがとうございました。
色々やってみたが良くならない、こんなものだろうと諦めているあなたにこそ、東洋医学の良さを知って頂きたいと思います。